膵臓がんの検出率が 97% に向上 : 米 Mayo Clinic が発表

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米国の著名な医療機関マヨクリニック( Mayo Clinic )が、AI を活用した膵臓(すいぞう)がん診断で大きなブレークスルーを達成したと 2025 年 7 月 31 日に CBS Minnesota の「 Talking Points 」で報じられました。この成果により、従来の診断方法では見逃されていた早期の膵臓がんを高精度で発見できるようになりました。

膵臓がんは米国で年間約 66,000 人が新たに診断される致命的な疾患で、5 年生存率はわずか 13% という厳しい現実があります。膵臓がんは、初期段階では症状がほとんどなく、従来の画像診断では初期段階の腫瘍を見逃してしまうことが多かったため、見つかった時にはすでに手遅れになっているという診断の遅れが大きな課題となっていました。

マヨクリニックの研究チームは、NVIDIA の Blackwell SuperPOD という高性能 AI コンピューティングプラットフォームを活用し、3,000 人以上の患者から収集した CT スキャンデータで AI モデルを訓練しました。このシステムは、大量のデータを高速で処理し、人間の目や従来の診断技術では見逃されがちな数ミリメートルの微小な腫瘍を検出する能力を持っています。

その結果、AI による膵臓がんの検出成功率は 97% に達し、従来の約 50% から大幅に向上しています。さらに注目すべきは、AI が膵臓がんの兆候を平均 438 日前、つまり約 1 年以上早く検知できることです。これにより、がんがステージ 1 や 2 の早期段階で発見される可能性が高まり、手術や化学療法の成功率向上が期待されます。

早期発見の効果は生存率に大きく影響します。膵臓内に限定した場合、早期段階で発見された場合の 5 年生存率は 44% まで増加し、一般的な 13% と比較して大幅な改善が見込まれます。ステージ 1 の膵臓がんの 5 年生存率は約 50% である一方、ステージ 4 では 1% 未満となるため、早期発見の重要性は計り知れません。

技術的には、深層学習技術を用いて画像内の異常を高精度で識別し、膵臓がん特有の微妙な組織変化を捉える能力が優れています。AI の強みは、多数の画像を瞬時に解析できるため、医師の手作業による診断よりも圧倒的に高速かつ高精度な結果を提供できることです。

現在、この AI モデルは臨床試験段階にあり、特に家族歴などリスクの高い患者を対象とした「 AI-PACED clinical trial 」が進行中です。マヨクリニックは 2025 年中に本格的な臨床試験を開始し、2026 年以降の実用化を目指しています。

研究を主導する Dr. Matthew Callstrom ( AI 戦略部長 )は「膵臓がんなどの早期発見によって患者の治療成果が劇的に改善する」とコメントしています。この技術は膵臓がんだけでなく、乳がん、肺がん、肝臓がんなど他のがん分野への応用も見込まれています。

今後は FDA の承認プロセスを経て実用化が進められる予定で、AI による診断の自動化により放射線科医の負担軽減や診断効率の向上、医療費削減にもつながると期待されています。


筆者の見解:さまざまながんの中で、膵臓がんは特に発見が難しく、見つかる時にはステージ4まで進行してしまっているというケースが多いがんです。私の知人や先輩方にも膵臓がんで亡くなった方が多くいます。そのため、これまで早期発見の技術革新が一番望まれてきたがんの種類だと言えます。

画像診断に AI を導入するという取り組みは今回の AI ブーム(2022年以降)が起こる以前から行われてきましたが、地道な実証実験を経て、ここにきてようやく具体的な成果が見えてきました。現場への投入も間近、となってきていて、期待が高まります。