テスラ、独自スーパーコンピュータ「 Dojo 」チームを解散、推論 AI チップ「 AI5 / AI6 」の開発に集中

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Tesla は自社の AI 訓練用スーパーコンピュータ「 Dojo 」のチームを解散し、責任者だった VP の Pete Bannon が退職したことが明らかになりました。同社は今後、独自の次世代 AI チップ「 AI5/AI6 」に注力する方針へと大きく舵を切ります。

「進化的な行き止まり」と判断

Bloomberg の報道を受けて、イーロン・マスクが X 上で方針転換を正式に確認しました。マスクは「 AI6 チップが最適解であることが判明し、 Dojo 2 の継続は非効率的だと判断した」と説明しています。訓練用( Dojo 系)と推論用(AI系、車載など)の 2 系統のチップを同時に拡張するのは非効率だとして、リソースを AI5 / AI6 チップの開発に集中させる方針を示しました。

AI5 は FSD (自動運転支援)の推論を主目的とし、 AI6 は車載や人型ロボット( Optimus )向けのオンボード推論に加え、大規模学習にも対応可能だと位置付けています。マスクによると、 AI5 / AI6 は「推論に優れ、訓練にも十分な性能を持つ」とされ、複数の AI6 を基板に載せてクラスタ化すれば「 Dojo 3 相当」として学習用としても機能すると説明しています。

人材流出と体制変更が背景

この転換の背景には、 Dojo チームから約 20 名が新興企業「 DensityAI 」へ流出していたことも影響したとされます。 DensityAI は元 Dojo リーダーらによって設立され、ロボティクスや自動車、 AI エージェント向けのデータセンター用チップ開発を計画しています。

Pete Bannon は Apple 出身で、 2016 年から Tesla でハードウェア設計を担当し、 Dojo プロジェクトを主導してきました。残るメンバーは社内の他のデータセンターや計算処理関連プロジェクトに再配置される予定です。

外部パートナーとの連携強化

この転換に伴い、 Tesla は AI6 が本格稼働するまでの間、当面の学習用計算資源については NVIDIA や AMD など外部のパートナーからの調達に依存することになります。また、独自チップの製造面では、サムスンと約 165 億ドル(約 2 兆 4000 億円)規模の製造契約が取り沙汰され、 AI6 の量産を視野に入れた体制が進むと伝えられています。また、同時に TSMC も製造パートナーとして挙げられています。

Dojo の歴史と今後の影響

Dojo は 2019 年からマスクが「自動運転の中核」として掲げてきたプロジェクトで、現在走行している車両から日々吸い上げられている膨大な動画データを用いた学習を想定していました。 2023 年 7 月に生産が開始され、開始した当時は Morgan Stanley が Dojo により Tesla の企業価値が 500 億ドル(約 7 兆 3000 億円)押し上げられる可能性があると分析するなど、大きな注目を集めていました。

今回の決断は、訓練専用の自社スーパーコンピュータを開発するよりも、製品に直結する AI5/AI6 に集中し、学習処理は外部の GPU を活用する方が効率的だという経営判断の表れと見られます。短期的には FSD や Optimus など製品側のスピードを上げる可能性がある一方、 Tesla 独自の訓練基盤という差別化軸は弱まるため、 NVIDIA 依存度やコスト構造が再注目される局面になります。