GoogleとNASAが宇宙空間での医療変革に挑戦:AIアシスタント「CMO-DA」の開発

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Google と NASA が共同で開発を進めている AI 医療アシスタント「 Crew Medical Officer Digital Assistant(CMO-DA)」は、宇宙医療に変革をもたらそうとしています。月や火星などの遠距離探査では、宇宙飛行士が自分たちで健康管理を行う必要がありますが、この技術がそれを可能にします。さらに、地球上の遠隔医療分野にも大きな変化をもたらす可能性を秘めています。

月・火星探査が直面する医療課題

国際宇宙ステーション( ISS )では、地球の医療チームとリアルタイムで通信し、定期的な医薬品供給や緊急時の帰還が可能です。しかし、NASA のアルテミス計画による月面探査や火星探査のような長期・遠距離ミッションでは、状況が一変します。

地球との通信には最大 20分の遅延が生じ、医薬品の再供給や緊急帰還は不可能になります。この環境下では、宇宙飛行士が自立して健康管理を行う必要があり、従来の地球依存型医療システムは機能しません。

CMO-DAの革新的な機能

CMO-DA は Google Cloud の Vertex AI プラットフォームを活用し、音声、テキスト、画像によるマルチモーダル・インターフェースを提供します。トレーニングデータとして、宇宙飛行に関する医療文献を用いて訓練されているため、微小重力や放射線被曝など宇宙特有の健康問題にも対応可能です。

システムの主要機能には、症状の分析と診断提案、利用可能な資源に基づく治療プロトコルの推奨、医療手順のステップごとの指導が含まれます。さらに、患者の経過観察と治療計画の調整、医療記録の管理と健康トレンドの追跡も行います。

CMO-DA は搭乗員の中から選ばれた Crew Medical Officer(医療担当者)やフライトサージャン(飛行医)をサポートし、乗員全体の健康維持を支援するよう設計されています。

高い診断精度を実証

現在実証(PoC)段階にある CMO-DA は、3つの模擬的な状況下でテストを実施しました。足首の怪我では 88%、脇腹の痛みでは 74%、耳の痛みでは 80%の診断精度を記録しています。

評価には医学教育で使われる「客観的臨床能力試験( Objective Structured Clinical Examination )」フレームワークが活用され、報告された症状に基づく信頼性の高い診断能力が実証されています。

現在、医師や専門家との共同でモデルの改良を進めており、医療機器からのデータ統合や微小重力などの宇宙環境要因を考慮した状況認識の強化を目指しています。

地球上の遠隔医療への応用可能性

CMO-DA の技術は宇宙だけでなく、地球上の医療過疎地域や災害時、軍事展開時での活用も期待されています。医療専門家が不足する僻地での診断精度向上や医療アクセスの拡大に貢献する可能性があります。

専門家は、この技術が遠距離宇宙探査の安全性を高めるだけでなく、地球上の遠隔医療に革命をもたらす可能性があると評価しています。ただし、地上での使用には規制当局の承認が必要で、現時点で承認計画は未定です。