OpenAI は、完全な営利企業への移行計画を撤回し、非営利団体による管理を維持しながら営利事業部門を公益法人(Public Benefit Corporation、PBC)に移行する方針を発表しました。この判断は、カリフォルニア州とデラウェア州の司法長官との間での話し合いにより決定されました。
この新たな構造では、法人格を持つ非営利団体である OpenAI Inc が引き続き組織全体を監督し、主要な株主として PBC を管理します。米国では PBC は法的に公益目的の追求が義務付けられながらも、営利企業としての性質も持ち合わせた特殊な企業形態です。株主の利益と社会的使命の両方を考慮した経営が求められるこの形態により、AI の倫理的開発と商業的成功の両立を目指します。
注目すべき点は、PBC への移行により、OpenAI が従来採用していた「制限付き利益モデル」(投資リターンの上限が投資額の 100 倍)という独自の仕組みから、通常の株式構造へと変わることです。これにより投資家にとって理論上はリターンの上限がなくなり、AI 開発に必要な巨額の資金調達が容易になると期待されています。また同時に、非営利団体が主要株主として管理を続けることで、公益性を担保する仕組みを維持します。
OpenAI の CEO サム・アルトマン氏は、親会社である非営利団体 OpenAI Inc を「史上最も効果的な非営利組織の一つ」にすると強調し、医療、教育、公共サービスなどの分野で AI が民主的かつ公平な影響を与える方法を模索するための新たな委員会を設立する計画を明らかにしました。
この方針転換の背景には、イーロン・マスクなどの共同創業者や AI 倫理の専門家、市民団体からの強い批判があります。マスクは 2024 年、OpenAI が非営利のミッションを放棄し営利企業化することで設立当初の約束を裏切ったとして訴訟を提起しました。今回の発表後もマスク側は、この変更を「表面的」と批判し、訴訟を継続する意向を示しています。
一方で、この複雑な構造には課題も残されています。非営利団体と PBC の関係は法的に複雑で、利益相反や統制の不透明さが指摘されています。また、マイクロソフトなど主要投資家の期待と非営利ミッションのバランスをどう取るかも引き続き重要な課題となります。
OpenAI の今回の決定は、AI 業界におけるガバナンスモデルの一つの実験として注目されており、Anthropic や X.ai など他の AI 企業も同様の PBC モデルを採用しています。この構造が成功すれば、AI の倫理的開発と商業的成功を両立させる標準的な形態として、業界全体に広がる可能性があります。