2023年以降、AIの進化は急速に続いていますが、この進化を支えるには膨大な電力が必要となります。
メガテック企業は大規模データセンターの計画を次々と発表していますが、それを支える電源が限界を迎えていて、既存の電力インフラではそれを支えられないことが明確になってきました。
そこで以前にも「Editor`s Pick」で取り上げましたが、現在にわかに脚光を浴びているのが原子力エネルギーです。
その中でもとりわけ安全性が高いとされる「小型モジュール炉(SMR)」が注目を集めています。
ただ、注目度の高いSMRですが、なかなか実用化が進みません。
SMRは、通常、出力が従来型の原子炉の3分の1以下で、出力が小さい分、設置面積も小さくでき、例えば、主要なSMR開発企業の一つであるNuScale(NYSE: SMR)によると、必要な敷地面積は0.13平方キロメートルと、従来型と比べて1/10〜1/20(約5%〜10%)の敷地で済みます。
さらに、SMRの多くは「受動的安全設計」を採用しており、地震や津波などの災害時でも、外部電源や人的操作なしで原子炉を安全に冷却できる仕組みを備えています。これは、2011年の福島第一原子力発電所事故の教訓を活かした設計となっています。
しかし、過去数十年間に80以上のスタートアップや事業が立ち上がったにもかかわらず、実際に建設されたSMRはごくわずかです。
最大の問題は、プロジェクト立ち上げのコストがかかりすぎて、現時点では収益的に「割に合わない」ことです。
特に欧米では、規制要件が厳しいことや、新しい設計のためプロジェクトの遅延などが頻発し、立ち上げコストが膨大にかかってしまっています。
カナダのVisual Capitalistが発行している「Decarbonization Channel」では、発電方法による1MWHあたりの発電コストを比較した調査結果を公表していますが、そもそも従来型の原子力発電であっても、立ち上げコストを計算に入れると、他の発電方式と比べてコスト競争力が低いとされています(*既存施設を延命する場合は最安レベル)
従来型の原子力でさえこの状況で、まして、出力の小さいSMRは、そのメリットである出力が小さいことが災いし、1MWhあたりの発電コストは跳ね上がり、経済的に採算が合わない、ということが起きているのです。
そもそも、まだ実用化の目処が見えない現状の時点で、民間が主導してプロジェクトを進めるのは無理があるのではないかと筆者は思います。
一方で、中国やロシアでは国家主導のアプローチを取り、サプライチェーン全体を一括して管理し、規制問題もクリアしながらSMRの開発・展開を着実に進めています。現に中国では2026年末までに、世界初の商業用陸上SMRとなる「玲龍1号(Linglong One)」の完成を目指し、着々と工事を進めています。
SMRは、再生可能エネルギーと併用する形で、将来のエネルギーミックスの重要な一角を担うことが期待されています。しかし、その実現には、技術面のみならず、規制や経済性、廃棄物処理などの課題があり、民間でその問題を解決するのは難しそうです。ある程度の段階までは、国家主導で取り組んでいき、普及段階になったところで民間主導にうつしていく必要性があるように思われます。