【Editor’s Insight】2024年のトレンドワード:Wrapperとは?

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昨年11月頃からちらほらと耳にし、特に24年に入ってから「Wrapper(ラッパー)」という言葉をよく聞くようになりました。2022年11月のChatGPT登場以降、少しプロンプトを工夫し、アウトプットを整形しただけで提供されるサービスが雨後の筍のように続々と現れ、これが「”Thin”(薄い) Wrapper」の始まりとなりました。

その後、ChatGPTやClaudeをはじめ、多数のオープンソースモデルを含む多機能な基盤モデル(foundation model)が多く登場し、APIや組み込みを通じてその出力結果を自由に活用できるようになりました。これを機に、2023年後半からは、ある機能に特化し、出力を本格的にカスタマイズして新たなサービスとして組み上げる企業が出現してきました。最近はこうしたサービスを称して「Wrapper」と呼ぶことが多いですが、上記のThin Wrapperに対して、「”Thick”(分厚い) wrapper」と区別して呼ぶ人もいます。

例えば、検索に特化したPerplexityは「(Thick)Wrapper」の代表格とされ、よく引き合いに出されます。Perplexityは、前処理に独自の工夫と特徴を持ち、背後の基盤モデルとしては、ChatGPTやClaude、自社製など複数のLLMを場合によって使い分けることで、各種の基盤モデルが不得意だった「検索」という分野に最適化することに成功しています。

また、昨日取り上げたプリンストン大学のSWE-agentも、裏側の基盤モデルとしてはGPT-4を使用したと公表されていますが、プログラミング性能のみで言えば、GPT-4を大きく上回り、Thick Wrapperの一種とも言えるでしょう。

2024年の今年は、当面この動きが続くと予想されます。多機能の基盤モデルをベースにした、機能特化型のWrapperサービスが多数登場するものと思われます。処理内容によっては、裏で利用する基盤モデルはそこまで高性能である必要はなく、オープンソースかつ少数パラメーターのモデルで十分な場合もあるかもしれません。

AIスタートアップ企業はThinとThickのどちらの戦略を選ぶべきか、慎重に検討する必要があります。Thin Wrapperは市場投入が速いですが、参入障壁が低く差別化が難しいという特徴があります。一方、Thick Wrapperは基盤モデルの機能以上の価値を提供し、競争優位を生み出すことができますが、開発リソースを多く要するという点に注意が必要です。スタートアップのステージによっても、どちらを選択するかは変わってくるかと思います。最初の立ち上げ期はアイディア勝負で時間とお金をかけずにスタートし、段階に応じて差別化ポイントを増やしていくという戦略も考えられます。また想定される市場が、社内利用なのか、BtoBなのかBtoCなのかによっても取るべき戦略は変わってくるでしょう。

いずれにしても、2024年はこうしたWrapper企業のニュースが増えてくると思われます。この視点で今後登場するサービスや企業を見ていくと、理解がしやすく、面白い発見があるのではないでしょうか。